きのせい


すきなおんがくかに

まちで、そうぐうした。

ともだちとまちをあるいていたら

ふんわり、そのひとはまいおりた。

そのおんがくかは

わたしのともだちの ともだちだったようで

あんまりにもふつうに、ことばをはなしていた。

息をしていた。

木の芽からうまれたとしかおもえないような

そのひとは

ともだちをはぐすると

ひらひらと手をふって

またふんわりと、まいあがっていった。

わたしは「すきです」とつたえた。

「すきです」は

木の芽の中に、ふううううんとすいこまれていった。

駅までのみちを、ともだちとあるいた。

おんなじまちの、地つづきのみちが

まったくちがう場所だったみたいにかんじた。

あの場所だけ、きりとられたみたいにかんじた。

またもどったって、そのおんがくかは

もうどこにも、いないきがした。

ふつうにはなしていた
そのおんがくかのこえは

うたごえとおなじ、風のような密度で

「ありがとう〜」

そのこえが
まだわたしのからだのなかをすりぬけてる。