むだい

いちいちしみいる。

いちいちしみいるのである。

漬物がうまい。

おひたしがうまい。

めかぶがうまい。

自然物のミネラルが、いちいち、しみいる。

ひとがやさしい。

空気がおいしい。

つきがうつくしい。

自然物のミネラルが、いちいち、しみいる。

枯渇の先のよろこびというものなのかしら。

こういうのを知っているから

どうにも飽和することからのがれてしまうし

満たされることを拒否してしまうところがある。

食事に行った店の店主が、わたしを連れて行ってくれた常連である彼女に
「はじめてですか?」と聞き

彼女が「よくきてますよ」と返したのを見てとっさに

「いつも記憶が新しく更新されてよいですね」と返したのだけど、
いまおもえば皮肉でしかなかった。申し訳ない。

とにかくおいしかった。
おいしかったので皮肉をこめる所以はなかった。ご理解いただきたい。

部屋の掃除をする気持ちが湧いてきたし

布団を洗って干して、いただいたアロマスプレーを枕にかけて眠るのもたのしみ。

散歩に出かけておいしいコーヒーをのみたいし

そのあいまで事務作業をすませるのもたのしみになった。

確証はないけど大丈夫なあしたをきっとみつめて
きょうそばにいてくれるひとの表情の一つ一つを手に取りたい。

必要なことは必要なぶんだけ、必要なときにやってくるし

気を急いだりしなくても
湧き水のように何かが溢るる瞬間はきっとやってくる。

それだけで、大丈夫なのだとおもう。